やっぱりWebが好き

TwitterのAPI問題を見ていて改めて思ったこと

9月に入り、TwitterがAPIの仕様を大きく変えてきました。従来のAPIを使ってオリジナルのTwitterクライアントを開発してきた人たちにとって、このAPI改変は死活問題です。今回の一件で、TwitterやFacebookといったプラットフォームを用いて何かを表現したり、売ったりしていくことのリスクを、はっきりとしたかたちで垣間みた気がします。

月、Twitterが発表したAPI利用ガイドラインの厳格化によって、いくつかのサードパーティアプリが開発終了を宣言しました。アメリカではTwitterのエコシステムをオープンにすべき( Petition | Twitter: Keep Your Ecosystem Open | Change.org )とする電子署名が行われるなど、一部の開発者やユーザーに大きな波紋を呼んでいるようです。

TwitterやFacebookといったメジャーSNSは、もはやネット上のインフラ的存在。彼らの存在ありきでビジネスをしている人も増えてきた昨今ですが、サービス提供者がいつどういった事情で仕様を改変するかはわかりません。
そうした不透明なプラットフォームであることはTwitterにしてもFacebookにしてもTumblrにしても同じなわけで、何をするにしても仕様変更のリスクを考慮に入れないわけにはいかないことを、今回の一件で僕は改めて強く認識したわけです。

正直言うと、個人的にはSNSを使って何かやろうという仕事にはあまり乗り気じゃないんです。もちろん、短期的なプロモーションには効果を発揮するんだろうし、クライアントがそこに期待しているのも理解できます。
ただし、制作者の立場としてはやっぱり表現に制約が多いし、今回のTwitterのようなリスクもじゅうぶん考えられる。クライアントにSNSを使った施策を提案する際は、そのリスクについてもきちんと説明してあげるのが我々の義務だと改めて思いました。

仕様変更はWebデザイナーにとってのリスク

若者を中心に急激な勢いで成長を続けるLINEは打倒Facebookに燃え、SNSとしての機能拡張を続けている

新興勢力のLINEがそうであるように、TwitterやFacebookだって企業ユースはそのうち有料になる可能性も考えられるでしょう。
ちなみに、LINEの公式アカウント開設料は初期費用200万円、月額150万円〜( 無料通話・無料メールアプリ「LINE」、企業向けに「LINE公式アカウント」を提供開始(PDF:126KB) )で、僕はかなり大胆な価格設定だと思っています。気軽に「やってみよう」と言えない金額である反面、企業のLINE活用に対する姿勢はTwitterやFacebookのそれよりも確実に本気度が高まるはずです。
質の高い公式アカウントのみでネットワークが構成されることはユーザーにとっても大きなメリットとなるはずで、LINEの戦略が成功するのかどうかは今後に注目です。

そして、利用者にとっての有料化リスクだけでなく、制作者にとっては仕様変更に伴う改修というのも、いつ訪れるかわからないリスクです。
Webデザイナーにとっては、有料化よりもむしろ仕様変更のほうが怖いぐらい。たとえば、TwitterのAPIを利用して作られたWebサイトが、APIの仕様変更により改修せざるをえなくなる。すでに納品を終えて運用をクライアントに託している場合、その改修費用って誰がどうやって負担するんでしょ。最悪の場合、改修したところで元のWebサイトのような表現は不可能になっちゃうことも考えられるわけで、そうした場合はサイトの企画やデザインから見直しだよなぁ、と思うと、とても恐ろしい話です。

佐賀県武雄市は昨年8月に公式サイトをFacebookで構築するという大胆なことに挑戦しましたが、Facebookはその後タイムライン化を行いました。つまり、タイムライン化を機にFacebookのUIが変わったのと同じくして、武雄市の公式サイトのUIも変わったわけです。
自治体の公式サイトがFacebookの仕様変更を理由にインターフェースを変えてしまう、ってどうなんでしょう。公共性の高いWebサイトはインターフェースをころころ変えるべきじゃないと個人的には思います。そう考えると、デザインやインターフェース表現もすべて他者に委ねてしまうというのは、やっぱりリスクが大きい。

Twitterはすでに新しいAPIの運用を始めていますが、今後、開発者に影響を与えるかもしれないのは、XML、RSS、Atomを出力形式としてサポートしなくなること(来年3月でサポート打ち切り)。JSONは引き続きサポートされるそうなのでJSONを使えば問題はないわけですが、RSSやAtomを使ってTweetを取得していた場合には、改修が必要になってきますね。

Twitterはどこへ向かうのか

映画『ソーシャル・ネットワーク』で一躍時の人となったFacebookの創業者マーク・ザッカーバーグ。ナスダック上場以来、Facebookの株価は下降線の一途を辿っているが……
(Photo By Andrew Feinberg

学生だったザッカーバーグが作ったFacebookがそうだったように、SNSベンチャーは最初から収益については深く考えていないケースが多いのでしょう。純粋に面白いものを作った結果、ユーザーが増えることでサービスとしての価値が高まっていく。WebサイトやWebサービスの価値は結局どれだけ多くの人が訪れるかということだから、まずはそこをめざすのがセオリーで間違いはないと思います。

Wikipediaによれば、SNSのビジネスモデルは「広告収入モデル」「ユーザー課金モデル」「他サイト誘導・連動モデル」の3つ( ソーシャル・ネットワーキング・サービス – Wikipedia )。
ソーシャルゲームによるユーザー課金でGREEやDeNAが高収益をあげていることはよく知られています(こういうモデルが是か否かは置いておくとして)が、それ以外のビジネスモデルはどうもピンとこない気もします。広告収入は一定、計算はできるんだろうけど。

Twitterは、何年も前からビジネスモデルの構築が課題だと言われ続けてきました。
APIを公開したことが彼らの成長を促したのはもちろんだけど、逆に彼らの首を絞める結果にもなったということでしょう。これだけTwitterクライアントが乱立したら、公式クライアント(公式サイト)の広告価値は低くなるばかりなわけで、最も単純明快な広告収入モデルさえも成り立たない。というか、成り立ったとしてもサードパーティクライアントが得ている広告収入やアプリ自体の収入を考えると機会損失が大きすぎる。

「収益なんて後回しでいい。リーンスタートアップこそ、シリコンバレー流のビジネスなんだぜ」と突っ走ってきたTwitterやFacebook(上場以来、株価は最安値を更新し続け、公募価格の半値以下になっている)は今、正念場を迎えています。
思えば、DeliciousもFlickrもYouTubeもPicasaも、結局ビジネスモデルのないままにYahoo!やGoogleに買収されていきました。Instagramもつい先日Facebookによって買収され、Tumblrも未だに確たるビジネスモデルのないままにベンチャー・キャピタルの投資を受けながらユーザー獲得に精力を注いでいる状況です。
SNSベンチャーにとっては最終的にバイアウトしてしまうことが現在のところ、最良のビジネスモデルなのかもしれません。

TwitterのAPI規制に反発する開発者たちの姿を見ながらふと思ったのは、前田敦子がAKB48を卒業することに反発するファンたちの姿でした。
「今まで君のためにこんなにいっぱいCDを買ってきたのに。急に卒業だなんて聞いてないぞ!」みたいな。確かにファンにとっては寝耳に水だったろうけども、アイドルだってビジネスでやってる以上、儲かるとこにステップアップしていくのは当たり前なわけで。

違うか……。でも、なんかちょっと似てない?
TwitterのAPI問題を傍目に見ながら、そんなことを思った週末だったのでした。

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