仕事の話アレコレ

自信と謙虚と。傲慢と卑屈と

僕がWebサイトをデザインするうえで最も重要視しているのが「バランス」と「ディテール」。
細部にこだわれる職人芸を自分の武器のひとつにしながら、デザインという行為がビジネスとしてきちんと成立するように、そしてデザインとしてアウトプットしたものがビジネスに貢献できるように、いつだって「細部」と「大枠」のバランスを保つことができるデザイナーでありたいと願う今日この頃なのです。

CSS Niteのデザイン特集に出させてもらった4年前(30歳の頃)、僕がデザイナーとして大切にしている2つのキーワードとしてスライドに書いたのが「Balance(バランス)」と「Detail(ディテール)」。

CSS Nite LP, Disk 12フォローアップ(2)東 孝之さん|CSS Nite公式サイト

今改めて当時のスライドを見返してみても、自分が考えるデザイン論は基本的に当時と変わっていないと思ってます。
もちろん、今となっては30歳の頃の自分の発言は「若い」と感じる部分も多い。でもそれは、この4年でよくも悪くも成長した自分がいるということ。過去の自分を見て、反省がないほうがむしろ悲しい。

デザイナーが「デザインできる」ことは当たり前の話。同時に、デザインの善し悪しは極論すれば見る人の「好み」の問題だったりもして、突き詰めていっても正解はないケースが多い。
大事なのは、デザインを作ること以外に自分に何ができるのかも含めて、デザイナーとしての能力をどれだけ磨いていけるかだと僕は考えています。

受託制作を生業とする者としての謙虚さ

受託デザイナーはあくまでもクライアントが示した道路の上を走っている。決して卑屈になる必要はないけれど、そういう謙虚さは必要

僕は雑誌のエディトリアルデザインからデザイナーとしてのキャリアをスタートさせましたが、当初から出版社で働こうという想いはまったく持っていませんでした。

それは単純に、いろんな媒体でいろんなデザインを作る経験がしたかったから。

デザイナーとしてのスキルやテクニックを手っ取り早く身に付けたかったら、広告代理店やデザイン事務所で受託のデザイン業務を大量にこなしたほうがいい。
インハウスのデザイナーは自力で作る能力を伸ばしきる前にプロデュースやディレクションといった上流行程の仕事を求められ、純粋な作り手としての腕を磨けるチャンスが少ないと思う。

一方で、受託でデザインを引き受けるということは、自らはエンドユーザーから一歩離れた立場にいるという事実を弁えていないといけない。
エンドの反応をダイレクトに受けられるのはクライアントであって自分ではないから、最終的にエンドに向けてよいデザインが作れているかどうかの判断はクライアントに委ねるほかない。

そもそもクライアントの事業の成り立ちから考えたら、Webサイトでできるのはほんのささやかな貢献でしかなかったりする。自分の作ったものはクライアントのビジネスを推進するためのほんの一部分のパーツであることがほとんどなのです。

受託デザイナーである以上、そういう謙虚さは忘れてはならないと思う。

クライアントが求めているのは「言いなり」で受け身のデザイナーではない

ただ従順であることを求めるクライアントはいない。求められたことを上回る答えを返そうとする意識は常に必要

謙虚さは大切だけれども、クライアントがデザイナーに求めているのは、自分たちの言いなりになってただ単にモノを作ってほしいということではなく、自分の期待をいい意味でどう裏切ってくれるかだったりもするから話はややこしい。

そういう意味では、謙虚も行き過ぎるとただの「卑屈」になってしまうと僕は思ってます。
「私にはわかりません」「私には無理です」「それは私の仕事ではありません」と言わざるをえない状況は確かに存在します(どんなに頑張っても「無理」な仕事は確かにこの世にある)。
けれど、そうしたことばかり口にする人に、誰も仕事をお願いしようとは思わないでしょう。

たとえば、僕らは毎日毎日Webサイトを作っている。そこには自信を持っていいと思う。
作るという経験、そして作ったものがどういう結果を生んだかという経験もそれなりに蓄積しているからこそ、予算やスケジュールなどいろんな条件も踏まえて、どのタイミングでどういったWebサイトを作ればクライアントの事業に貢献できるかというのは何となくわかったりもする。

だから、自信を持って「NO」が言えるデザイナーであらんとすることも重要だと思います。
無論、「NO」と言っても相手に信頼されるだけの能力を自分が持っていることと、「NO」を言うからには「YES」が何であるかは示すべきですが。

クライアントとの関係だけに限らず、自分のチームのことを考えてみても、YESマンしかいない状態というのはちょっと危ういと僕は思う。
年齢・性別・国籍など、多様性あるメンバーが集まればいろんな意見があって当然なわけで、それをぶつけ合ってベストな解を導き出していこうというのが組織としてのシナジーなんじゃないでしょうか。

「フルスタック」を志向するということ

めざすは「フルスタック」であって「中途半端」ではない。自分にできないことを捨てられるからこそ、特定の物事を極められるというのも真理

「フルスタックエンジニア」という言葉が流行り出して久しい。
僕のなかで「この人は優秀だ」と感じるエンジニアは、どの人もみな世の中では「フルスタックエンジニア」と呼ばれるんだろうと思う。
プログラミングはもちろん、サーバー構築からフロント画面の制作まで何でも一人でこなしてしまう人を、僕は何人か見てきました。

フルスタックエンジニアとは – IT用語辞典 e-Words

フルスタックと言えどもちろん本業・得意分野はあって、何でもパーフェクトなわけではないけれど、少なくとも「フルスタックエンジニア」と呼ばれるような人たちに共通しているのは、自らの業務範囲を狭く限定せず、「限界」をあっさりと手前に引いてしまわない姿勢だと思う。
それは結局、システムを設計したり、プログラムを書いたり、画面を作ったりといったさまざまな仕事に対して、どれだけ自分が本気でやりたいと思っているのかに深く関わってくるに違いない。

当然のことだけど、ある種の「覚悟」がなければ本気で物事に取り組むことなんてできない。何かを成し遂げるためには、何かを捨てなければいけない時だってある。
だからもしも今、自分が仕事に対して簡単に諦めたり折れたりするようなことがあるならば、それは結局、自分が本気でやりたいものではなかったということなのだと思います。
そういう割り切りも必要なんじゃないかな。

だからこそ、できるだけ広い視野でいろんな可能性にチャレンジしつつ、自分にとっての「コレ!」を探し続けることだって大切。ただし、人生は有限であることをちょっとだけ意識しながら、死ぬまでには何かを見つけ出すつもりで。

話が逸れたけど、デザイナーとしてフルスタックでいたいな、と僕は思うわけです。
プログラミングは苦手だけれど、PHPやJavaScriptぐらいはできる範囲で書く。自分の手に負えないものは安心して任せられるパートナーをきちんと見つける。そして、経営や事業といった視点も持ちながらモノを作る。

どれもすべて、自分に「デザイン」というコアなスキルがなければ意味がないこと。
デザイナーとして自分なりの理想を実現するためには、デザインを作っているだけではダメなんだってことだと思う。

スペシャリストからゼネラリストへ

自分にとってのスペシャリティを中心にしつつ、1カ所にとどまらず他の分野も極めていく意識を持っていたい

ビジネスの現場では「広く浅く」というゼネラリスト的な視点も大切だけれども、まずは何かの道で自分なりのスペシャリティを磨くべきなんじゃないかと僕は思います。

フルスタックエンジニアがゼネラリストと違うと感じるのは、「広く浅く」ではなく「広く深く」である点。彼らはひとつひとつの技術を中途半端で終わらせず、特定の技術を極めて別の技術を磨いていく感覚を持っている。

大枠ばかり考えて、細部を担うことにまったく無自覚なゼネラリストほど、やっかいな存在はいないはず。「細かい仕事はオレの仕事じゃない」的な。
そこは、業務内容の差こそあれど、自らの手で細部を詰めるような仕事を経験してからステップアップしているかどうかが大きく影響するんじゃないかと思うのです。
「修行」を経験しているかどうかで、同じゼネラリストでもだいぶ細部への配慮が異なってくるんじゃないかなぁ。

傲慢はダメだけど、たとえばデザイナーならば誰にだって「じゃあ、お前が作れよ」というシチュエーションは経験があるはず。
今の僕がもし、後輩からそう言われたとしたら(そんなこと言う子はいないですけど)、「わかった、オレが作る」と答えられるだけの自信はあるわけで、そうした覚悟なくして人に偉そうなことは言えるはずがないのです。

一方で最近は後進に対して、説教くさい「おじさん」になっている自分を自覚することもあって、そんな時は必ずこの言葉を思い出します。

“僕が偉そうに話してることは全て、これまで僕ができなかったこと”(松岡修造)

僕が後輩に対して思うのは、僕と同じ年齢になって、僕と同じことしかできていないのはNGだよ、ということ。
人類は先人の知恵を授かりながら常に進化しているわけだから、僕だって、人や本や映画から学んだことに対して、常に自分なりの+αをくっつけて先祖よりは一歩上をめざしたい。

「自信」を持ちつつ「謙虚」さは忘れずに。そして、「スペシャリスト」視点の自分と「ゼネラリスト」視点の自分を使い分けて生きていく。
客観的に自分を見つめながら、常に足りていないものを磨いていくという姿勢は忘れないでいたい。決して焦らず休まず。

Comment / Trackback (5)

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  3. @HowcomeHow

    自分が何のために生きているのか。

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