仕事の話アレコレ

デザインの価値とは何か? これからの時代を生き抜くために考えておきたいこと

明けましておめでとうございます。
2015年のWriting Modeは、昨年末にWeb界隈でバズっていた話題への言及からスタート。ずばり「UIデザイナー不要説」について、デザインをベースにキャリアを歩んでいる僕の今の見解をまとめておきたいと思います。
結論を言えば、デザイナーに求められるのはUIだけじゃないから、UIデザインしかできない(やらない)デザイナーはそりゃ確かに不要って言われちゃうでしょうよ、ということです。「デザイン」という言葉をあまり広義にとらえすぎるのもよくないのかもしれないけど、僕たちは「デザインが生む価値って何ぞや?」ってことをきちんと考えなきゃいけないと思うんです。

ザインというと、どうしても我々は見た目の話だと思いがち。
事実そういう側面もあるし、僕自身、ビジュアルとしての見た目を軽視するつもりもないから、それはそれで正しい解釈。ただし、見た目はあくまでもデザインの一部分でしかない。

UIデザイナー不要説 / LSD LAB

当然、ブランディングのためにはファッショナブルであることが必要で、ダサい(きちんとしてない)ものよりはカッコいい(きちんとしている)ものにこそデザインとしての価値があると思う。
先日、Web業界とは一切関係ない業界で働いている友人と話した時、彼は「自分がECサイトで何かを買おうと思ったら、やっぱりちゃんとしたところから買おうと思うから、デザインは大事だと思う」というようなことを言っていました。
当然だけどすごく的を得た意見だと思っていて、デザイナーに求められるのはサービスの信頼性を高め、より価値を高めてあげるデザイン。ただしややこしいのは、ダサいとか、カッコいいっていうのは結局のところ主観的なものであって、絶対的な評価基準は存在しないということ。

さらに、Webデザインの場合は操作性や動きも含めてデザインだし、最近はデバイスによってレイアウトが可変したりもするわけで、単純に見た目だけを指してダサいとかカッコいいとかっていう話ではないから余計にややこしい。
表示スピードを考えると見た目はどうしても簡素になるけれど、ユーザーはECサイトに華美な装飾なんて求めていないはず。文字画像を使いすぎたり、背景画像に凝ったりなんてことは、ECサイトでは極力すべきでないと思う。

要は目的が何かということをきちんと考えて、コストだとか時間だとか、そうした制約も踏まえて顧客(クライアントとエンドユーザー)満足を得るのがデザイナーの仕事だと考えないとダメってことです。当然の話ですね。

切れないハサミと使えないWebデザイン | sogitani.baigie.blog

だからもし、ブランディングに予算を割くことができず、まずはきちんと動くプロダクトや最低限見られるサイト(ページ)を最優先に考えるべきスタートアップなのであれば、GIMPで適当にロゴを作って、BootStrapやWordPressといった「有り物」でサイトを構築しちゃえば、じゅうぶんな見た目ができあがる。
その場合、確かにPhotoshopでビジュアルを作ってHTMLとCSSとJavaScriptを書くことしかしないデザイナーは不要になってしまうと思います。

要するに、デザイナーとして表層だけではなく、事業に踏み込んで人やお金、法などの話を理解しようとする人材でいられるかどうかが重要だということです。
セールス(プリセールス)や運用(ポストセールス)も含めてデザインとしての価値を考えないと。なぜなら、僕らはビジネスとしてデザインをしているから。

イノベーターであれ。同じ仕事は繰り返すな

ずっと同じところにとどまっていては、新しいものは生まれないはず。アイデアを得るために、考えることはやめない

僕は以前作ったものと同じようなサイトを繰り返し作るような仕事はなるべくしないように心がけています。もしも、そういう話がきた場合、まだやったことがない同僚や後輩、または他の方にお願いするのを基本に考えるようにする。

当然これまでに培ったスキルやテクニックは活かすから、同じ仕事を繰り返さないと言っても全部ゼロから作るというわけではなく、ちょっとだけでもこれまでとは違ったやり方を考えてみるということです。
もちろん受託案件の場合、どうしても最終的にクライアントの意向で以前作ったようなサイトになってしまうことはあります。
重要なのはあくまでも「同じ仕事を繰り返さない」という意識。

繰り返される仕事は「オペレーション(作業)」であり「デザイン」ではない。そう考えると、デザインってとてもしんどい仕事なんだと思います。
いろんな常識を疑い、多くの人から良しとされるものを批判的に見つめてみないと、豊かな今の時代には、なかなか新しいアイデアって出てこない。尖りすぎたデザインはダメだと思うけど、できるだけ尖らせてみようという姿勢を僕は大切にしています。

そもそも新しいことは疑いの目で見られがちで最初はなかなか受け入れてもらえないし、成功するか失敗するかもよくわからないチャレンジ。リスクだってある。
でも、今、目の前にあるものをベースにして積み上げることばかり考えていてもインパクトはないから、ある程度、大きな目標・目的からブレイクダウンしてくるような考え方を最近はより意識します。

あと、新しくて面白そうなものはとにかく乗っかってみる。iPhoneが出たら買うし、ウェアラブルデバイスが出たら買うし、「何かこれを使えば面白いことができるかも?」ってものがあれば、とにかく自分で使ってみる。
この業界で働いている以上、イノベーターであらんとする意識は重要かな、と。もちろん、イノベーターって社会から浮くことも多いのでタフでなきゃやっていけないと思うんだけど、そこはメンテして鍛えて乗り越えていく。
そして新しいものを追いかける努力はし続けたいけど、同時に世の中には決して変わらない原則があることは忘れたくない。たとえば、人を貶めたりせず人の役に立とうとすること。
僕はデザインが好きだけど、ただ単に自分がデザインを楽しむだけでなく、結局のところ誰かに喜んでもらいたくてデザインを作ってる。自分の好きなことを通じて誰かに貢献できると思うからこそ頑張れる。そのベースは時代が変わっても決して揺るがないと思う。

Photoshop Requestに学ぶコミュニケーション

Photoshop Request は画像補正のテクニックを駆使した高度な悪戯サイト。悪戯のネタばらしは、Photoshop Troll というサイトに公開されている

Send a request – we’ll photoshop it for FREE!(リクエストをどうぞ。無料でPhotoshop加工をします!)

Photoshop Request – The FREE Photoshop Service.

Photoshop Troll

タダより高いものはない—。無料という言葉に釣られて写真加工をPhotoshop Requestに依頼した結果、思わぬ修正の仕上がりにターゲットは何度も悪戯の仕掛人と不毛なやり取りをさせられる。
あるPhotoshop職人が行うそんな高度な悪戯が、2年ほど前にアメリカで話題になったことをふと思い出しました。

違う違う、直してほしいのはソコじゃないっ!! 写真の無料修正サービスを装ったイタズラが面白すぎてアメリカで話題に! | Pouch[ポーチ]

この悪戯は、画像の無料修正を引き受ける留学生たちは英語が苦手で修正指示をきちんと理解できないかも、という設定のもとに行われていたそう。「ちょっとやりすぎだろ」と思いつつ、実は我々の現場で実際に起きていることを、ちょっと大袈裟にしただけなんじゃないかとも思える。

優秀なデザイナーは、やはり人とのコミュニケーションが上手。そして、当然そのぶん市場価値が高い。
クライアントがWebやデザインに明るくない場合は、相手のところまできちんと降り立ってコミュニケーションをしなければならない。制作者どうしの共通言語(専門用語や業界用語みたいなもの)がクライアントに対しても通じると思ったら大間違い。
ちょっと面倒だけど、丁寧すぎるぐらいにクライアントとコミュニケーションするぐらいの感覚でよいのだと僕は思います。もちろん、時間やお金の制約を踏まえたうえで最大限に、という意味で。

そこをサボってる人は、結局クライアントの求めるものを理解できないだろうから、よいアウトプットを生み出すことはできない。
というより、アウトプットの質云々ではないところでクライアントに不満を持たれてしまったうえで、デザインについて語ったところでまったく説得力がない。そもそもクライアントのマインドがアウトプットの善し悪しまで辿り着くことができないはずなのです。

純粋に見た目の質だけを突き詰めて勝負するなんてことはビジネスでは稀なわけです。
顧客との対話を含めてデザインを考えないと。

クラウドソーシングは世界を幸福にする仕組みであってほしい

行きすぎなければクラウドソーシングはよい競争を生み、弱者にチャンスを与える仕組みでもある

チラシデザインのコンペ – 予算1万円で20提案|クラウドワークス

クラウドワークスのランディングページを見ていると、正直、デザイナーとしては複雑な気持ちになります。発注者には嬉しいかもしれないけれど、1万円でコンペをされるような仕事が果たして仕事と呼べるのかどうか。

AirbnbやUberもそうだけど、空きリソースを用いたり、仲介業者をなくすことで低価格のサービスを受けられるのは消費者にとってメリット。ただし、こうした世界が行きすぎることに僕は疑問がないわけではありません。

先進国は豊かになりすぎていて、人口が増えることはなく、経済がこれから大きく成長することもない。大きな目で見ると経済を縮小させていく可能性のあるクラウドソーシングやAirbnbのようなコスト削減のためのサービスが注目されるのは必然的な時代の流れなのかもしれない。
無駄なお金は僕だって使いたくないし、むしろもっと有意義なことに使いたいから、こうしたサービスが世の中を幸福にする仕組みでいてくれるのであれば僕は大賛成。
クラウドソーシングにしたって、デザイナーとして自分自身に作れる能力がきちんとあって、たとえ一人であっても勝負ができる個であらんとする努力もとても大切だと思う。

ただし、チラシを1枚デザインするのに1万円だったらプロのデザイナーとしてそこで生計を立てることはもはやできないでしょう。
そんなのはサイドビジネスであり、あくまでも趣味になってしまうはず。もしくはほんとに「有り物」で要素を並べるだけの作業と割り切ってしまうか。

だから、僕らにできるのは1万円で作れるものよりは圧倒的なクオリティを持って、そのぶん顧客に価値を提供できるものが何かを真剣に考え続けること。
Photoshop Requestの事例を見ていると、そこにひとつの答えがある気がするし、その前に書いたように、「デザインって、ただ見た目を作るところだけじゃないでしょ」という話なんだと思います。結局。
見た目だけ切り出して考えちゃえば、確かにそのデザインには1万円の価値しかないのかもしれない。見た目を生み出す前後のプロセスも顧客にとって価値になるように仕事を考えていかないと。

僕は企業に所属して働いている立場なので、フリーランスでデザインをしているとまたちょっと考え方は変わるのかもしれませんが、「UIデザイナー不要説」からそんなことを考えた2015年の正月だったのでした。今年もよろしくお願いします。

Comment / Trackback (42)

  1. @goskana1

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