仕事の話アレコレ

Webデザイナーに送るDTPの基礎のキソ

僕ぐらいの年齢(1980年生まれ)だと、Webデザイナーになる前にグラフィック(印刷物)の制作経験を積んでいる人も多いと思うのですが、僕より下の世代になってくると印刷物の制作経験がまったくないWebデザイナーも珍しくありません。
でも、Webデザイナーだって名刺やフライヤーぐらいは自分で作れるようになりたい、と思うケースは多いんじゃないでしょうか。実際、フリーのWebデザイナーには印刷物制作の依頼も多いと聞くことがあります。
そこで今回のエントリーはグラフィックデザイン出身者として、Webデザイナーに送るDTPの超基礎的なTipsをまとめてみました。印刷物制作初心者のみなさま、ご参考までに。

は26歳までグラフィックデザイナーでした。
2000年代中盤ぐらいまでDTPのレイアウトソフトと言えば、QuarkXpress全盛でMac OS 9.2のQuarkXpress 3.3Jまたは4.0Jで雑誌のデザインをメインに活動していました。データ入稿先である印刷所のほとんどがOS Xに移行するまで長い時間を要したため、OS XがリリースされてからもDTPデザイナーたちはなかなかOS Xに移行できなかったんですね。

グラフィックデザイナー時代の僕の愛機はPowerMac G4(QuickSilver)。実家で眠っていますが、未だに起動してくれます

今でこそ、ページもののレイアウトソフトと言えばInDesignが当たり前で、OSもMacではなくWindowsを使うことも多くなっていますが、僕はInDesignを本格的に触る前にメインの業務をWebにシフトしたので、今は印刷物をIllustratorでデザインしちゃいます。長いページものを作ることはないので、それで十分なんです。

InDesignはどうしても覚える必要に駆られたら覚えます(というか、購入からか)。なので、以下のエントリーは基本的にはIllustratorを想定して書いています。
もちろん、基本的な印刷技術はアプリケーションとは無関係な話なので、そこはあまり気にしないでいただいてよろしいかと。

トンボって? 塗り足しって? 基本のキホン

基本中の基本ですけど、まずはトンボ(トリムマーク)から。
トンボの役割は仕上がりサイズを示すためはもちろんですが、多色刷り(基本は4色)のための版の位置合わせにも用いられます。
なので、多色刷りのトンボはレジストレーションカラー(すべての色が100%)で作られます。
このへんは本当に基本の基本なので、もしもわからない方は印刷屋さんのWebサイトでも参考にされたし。

塗り足しとトンボ|印刷通販のグラフィック|オリジナルプリント作成の決定版!

トンボは良しとして、プロでもたまにウッカリなんてことがあるのが「塗り足し」です。
印刷物の断裁時には多少のズレが絶対に生じます。寸分の狂いなく大量に紙を切るなんて、さすがに今の技術でも不可能。
だから、きちんと断裁サイズの外側まで「塗り足し」を作ってあげないと、裁ち落とし写真などのエッジに白い部分が見えてしまう事態が起こりえます。
塗り足しは基本3ミリです。仕上がりサイズの3ミリ外側までデータを作ることが必要です。

初心者がやりがちなミス

カラー設定(編集 → カラー設定)は「プリプレス用 – 日本2」を選択(Adobe Illustrator CS5)。もちろん、Photoshopも同様に

まず当たり前ですけど、印刷物のカラー設定はCMYKです。RGBではありません。印刷物を作る際にはIllustratorやPhotoshopのカラー設定はCMYKにしましょう。

ネットで入稿できる印刷屋さんの多くはRGBのデータをCMYKに変換して印刷してくれたりするみたいです。しかし、たとえばRGBの黒はCMYKに分解されたときに、4色すべてに不規則に色の入った黒になってしまうでしょうから、「なんか薄いぞ?」という黒になってしまう可能性もあります。
最初からきちんとCMYKでデータを作りましょう。

また、色の数値は5%刻みぐらいで設定しましょう。たとえば、C(シアン)3%というデータを作ったとして、Illustrator上ではかすかに色が見えても、実際の刷り上がりにその色が出るかは疑問です。
最近の印刷技術は非常に高いとは言え、印刷で表現できる最低の数値は5%からと考えたほうがいいと思います。

CMYK色とRGB色について|印刷通販のグラフィック|オリジナルプリント作成の決定版!

「ヘアライン」や細すぎる線というのも初心者がやってしまうミスです。
僕はグラフィックデザイナー時代にこれをやってしまった新人を何人か見てきました。

印刷物で表現できる一番細い線は0.1mm程度です。これより細い線を設定してしまっても、画面では表示されるし、プリンターの出力でも確認できますが、オフセット印刷では0.01mmなんていう線は印刷されません。
これをやってしまうと、実際には線のあるべきところにまったく線が印刷されないという恐ろしい出来事が起こります。

その他(Illustrator) – 線設定とヘアライン|印刷通販のグラフィック|オリジナルプリント作成の決定版!

あとは基本中の基本として、画像の解像度があります。印刷物の写真などの解像度は350dpiが基本です。
実際には250〜300dpiぐらいあれば、まあ何とか見られる画像が印刷されてきます。どうしても解像度が足りない場合は無理矢理引き延ばして使っちゃうことは決して珍しくありません。

ちなみに、ポスターなど、遠目で見る大きな印刷物の解像度は150〜200dpiぐらいだったりします。駅貼りの大きなポスターなんかも、すごく近づいてみると実はかなり写真が粗いのはそのためです。

そして、解像度は350dpi以上あればよいというわけではなく、実寸で350dpiと考えたほうがよいです。高すぎる解像度はデータの容量を無駄に増やすだけでなく、モアレ の原因にもなってしまいます。

配置画像(Illustrator) – 解像度|印刷通販のグラフィック|オリジナルプリント作成の決定版!

リッチブラックという概念も知っておいたほうがよいでしょう。
通常、黒はK100%ですが、リッチブラックはK100%以外にも色が入った黒です。K100%よりも黒さが増すのでリッチブラックと呼ばれています。

上の黒がリッチブラック(C50%・M50%・Y50%・K100%)で下の黒がK100%の通常のブラック。画面では違いはわからないけど、印刷するとリッチブラックのほうが濃い黒になります

このリッチブラック、有効に使うと非常にカッコいいデザインを作るのに役立つこともありますが、リッチだからと言って、C100%・M100%・Y100%・K100%なんていう設定はしないでください。
これをやると紙はインクでベタベタになり、黒が裏写りしたり、大変なことになります。リッチブラックのインク総量は印刷会社によって違いますが、C50%・M50%・Y50%・K100%の計250%であれば、ほとんどの印刷会社で問題ないかと思います。

リッチブラックにかかわる技術として、オーバープリントというのも知っておくとよいです。
K100%ではオーバープリントで写真などに黒をノセたときに下が透けて見えてしまいます。ノックアウト(ヌキ)で処理してしまうと写真と黒の間に隙間が生じる可能性もあるので、こういうときにリッチブラックを活用するとよいと思います。

印刷の黒(Illustrator) – 墨ベタと墨ノセ(ブラックオーバープリント)|印刷通販のグラフィック|オリジナルプリント作成の決定版!

印刷物デザインのちょっとしたコツ

印刷物もWebもデザインすることに違いはないと僕は思ってますが、やっぱり慣れないことには難しい部分もあります。
最初は、とにかく作ったら出力して確かめろ、ですね。印刷デザイン初心者は画面で見ていたものと出力したもののギャップを初めの頃はなかなか埋められないはずです。
慣れてくるとテスト出力なんかしなくても、だいたい印刷されたらどうなるかがわかってきます。そうなるまでには何年かかかるはずなので、最初の頃は頻繁に出力して、チェックして、を繰り返すべきでしょう。

まずはIllustratorの環境設定で単位を変更するところから。WebとDTPを両方やるとアプリケーションの設定変更が面倒なのです

まず印刷物初心者は文字のサイズに悩んだりするかもしれません。
印刷物を作る場合の単位は、オブジェクトや線については「ミリメートル」を、文字は「級」と「歯」(行間や字間などの単位)を使うのが普通です。なかには文字を「ポイント」でやる人もいるみたいですが、僕は実際に「ポイント」を使う人はほとんど見たことがありません。
1級は0.25mmです。大雑把に言うと、本文は11〜13級ぐらいで、キャプションは7〜9級ぐらいでしょうか。6級以下の文字はかなり小さいので、地図上の文字など、特別な事情がない限りは使わないほうがよいと思います。

僕も昔は写植級数表を片手にデザインしている時期がありました。20代前半の頃は。
好きな雑誌に写植級数表を当ててみて、「この文字は何級だろう?」なんてよく研究したものです。今となっては懐かしい想い出。

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あと、プリンターで出力したときにトンボ付きのままでデザインを確認していると、実際に断裁されたときとのイメージのギャップに必ず戸惑います。
実際に印刷されたあとに、「あれ、こんなに余白少なかった?」とか。なので、トンボは必ず切って、仕上がりサイズでデザインを確認しましょう。
これはプロでも必ずやってることです。

そして、アウトライン化した文字はプリンターでは若干太るというのも頭にインプットしておくとよいでしょう。
特にインクジェットプリンターはオフセット印刷とは格段に解像度が違うわけで、アウトラインをかけた文字は実際に印刷されたものよりもかなり太く見えてしまうと思います。
経験によるところが大きいですが、実際のオフセット印刷はプリンターで確認していたよりも文字がひとまわり細くなる可能性が高いです。
デザイン時にはそれを意識してフォントのウェイトを選ぶとよいと思います。

写真をシャープに印刷させたかったら、シャープネスの処理は必須。カメラマンにお任せのケースも多いですが、自分でやるときは多少大胆なぐらいでちょうどよいことが多いです

最後にアンシャープマスクのかけ方について。
何となく眠たい(ピンが少しボケてる)写真はPhotoshopでアンシャープマスク(フィルタ → シャープ → アンシャープマスク)をかけてやるとよいのですが、画面で見たときに「ちょっと強すぎるかな?」ぐらいの感覚でかけたほうが印刷時にきれいに写真が見えることが多いです。このへんのさじ加減は本当に経験がものを言うプロの技ではありますが。

その他、もっと細かなテクニックは正直死ぬほどたくさんありますが、それは何年もかけて覚えていくものなので、そう簡単にはまとめられません。
ここに書いたのはあくまでも印刷物制作のテクニックのほんの一部です。

それにしても、最近の印刷の技術の高さには正直驚きます。
僕が印刷物を作っていた頃はあんなにきれいにグラデーションなんて出なかったんじゃないかなぁ。昔はよく見た版ズレとかも今ではほとんど見ないような。

しかも今はネットできれいなオフセット印刷が簡単にできてしまいます。
値段もかなり安いですよね。本当に便利な世の中になりました。

印刷物は刷ってみないとわからないドキドキ感がたまらないデザインの世界だと思ってます。
Webデザイナーのみなさんもぜひ、オフセット印刷で印刷物を作ってみてください。

Comment / Trackback (7)

  1. イシジマミキ (woopsdez) (@woopsdez)

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  2. @ymmm15

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  3. @illustshopnet

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  4. @Hide441

    良い記事でした。|Webデザイナーに送るDTPの基礎のキソ http://t.co/XwqsMUNsAg

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  5. @crawling_116

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  6. @driclogy

    私がまず読まなきゃいけないのはこれだ!ヽ(∀)ノ|Webデザイナーに送るDTPの基礎のキソ
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